旬なひと/恋月 ぴの
 
ひろげたお店を片付ける

そしてトイレで用を足したなら必ず水を流す

便器の底を覗けば
生きてきた私自身の素性が判る




早や店じまいの季節になったものだと
ひろげすぎた店先を見やる

大風呂敷とは違うし
片付けられない女とも違う

喘ぐような呼吸を繰り返す度に
私自身の痕跡はただただ拡がるばかりで

今さっき、ひねったばかりの排泄物が
家族写真のまんなかでぎこちない顔して笑ってた




かぶっていた猫を脱ぐ

お化粧ぐらいしておけばよかったのにと
言い訳めいた独り言

何かをすれば何かを忘れ
何かを忘れれば何かを思いだす

今日一日やり過ごせるのならそれはそれで幸せなんだと
収拾のつかなくなった人生を見てみぬふり

ひろげたお店を片付けよ!

いつまでもぐずる私自身に号令をかけたなら

拍子木を打ち鳴らしての店じまい





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