生と死の、あるいは性と肢/中山 マキ
 

誰かの思いは料理に似てる と
鼻の大きな料理研究家は
さも世界なんてもんは
片手鍋ほどの大きさだと
言わんばかりに胸を前に出した

調理される側の僕ら人間は
どうやって殺されるんだろうか よりも
どんな結果が待っているんだろうかを
期待している
それは、真っ直ぐ
直線状に雲を見上げる
あのレースの靴下の
女の子のように純粋で甘い

君が焼かれていくその様を
僕が煮えていくその様を
友が剥がされいくその様を
その意味を
想像して
日がな生きながらえる時の
美しさと絶望とを期待している

誰かの乳房が誰かの手で握られて
圧力鍋がファンファーレを鳴らすせいで
昨日世の中の光を全身に受けた
希望が泣いているよ

鼻の大きな料理研究家は
今日もわざとらしく
パルメザンチーズをパスタに振って
世界の四季はまるで私が糸を引いているのだと
それはもう楽しげに笑う




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