御伽話その2〜優しい傷跡〜/永乃ゆち
 
しまって
本当の事が何も言えなくなった。
それに、愛想を尽かしたのだろうか。
講義にも現れない。
私は、独りきりになってしまった。



何故奪ってしまわなかった?
自分に正直にならなかった?
彼女の言ったように
積極的に生きようと
結婚しようと一言。
何故言えなかった?
全てを敵に回しても
良い筈だったのに。


何故彼女を守れなかった・・・。

あんなに心地良かった「一人」に
今更こんなにも動揺している私は
後悔ばかりに溢れた、唯の男だ。


**



さようならあの人
もう二度と
さようなら思い出
痛みの中で
愛した事は
それだけが真実
後悔は無いけれど
私わたしを
許せずに居た
さようならあの人
さようなら思い出
来世で愛を語りましょう


**


-------或る雨の日。
キッチンで、
思いも、思い出も
全て煮溶かそうと
林檎を煮る女が、
独り。

Fin.
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