猫の森であいましょう/済谷川蛍
「もういや!」
女のほうが店を出ていった。彼女の後ろ姿を見送って一同が安堵したような空気になったが、殺伐とした気分の僕はもっと彼女たちの喧嘩を聞いていたかった。明日にはまた平日の静かな空が広がっているかと思うと憂鬱になる。僕はまた一杯酒を注文したが、Nは遠慮した。外で救急車のサイレンが鳴り響いている。Nには明日も仕事があるが、僕には気紛れにやる日雇いしかない。彼女はもう戻ってきてくれないだろうか。店の奥で一足早くクリスマスツリーが輝いている。明日、百貨店へプレゼントを買いに行こうと決めた。頭の中で買い物の様子を思い浮かべる。女性向けのファッション誌を入念に立ち読みし、10万円くらいの洒落た小物を探し、お店でプレゼント用に包装してもらう。帰り道、僕は車に轢かれて死んでしまう……。
「嬉しそうな顔して何考えてるの」とNが首をかしげて笑った。
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