猫の森であいましょう/済谷川蛍
しく言ってくれた。ジャケットを脱ぐとNは「いい服だね」と言ってブランドショップの店員のように綺麗に畳んで向かいの席に置いた。
「ねえMくんそんなこと言わないで!」
さっきの女の語気が強まり店内が緊張がする。見渡すと他の客たちも同じように声の主を探しており、店の奥にそれらしきカップルを見つけた。
「どうしたのかな」とNが声をひそめて言った。
「別れ話じゃね」と僕は鼻で笑ってグラスを口に持っていった。酒を流し込みながら、ふと思った。こういった仕草一つ一つが処世術なのだ。様々な意識の入り組んだ身のこなしには緊張を和らげたり、虚勢や見栄を張ったり、自分の魅力のアピールが含まれている。この酒
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