こおろぎ/mortalis
 
 

早くに生まれたこおろぎは

誰に歌えばいいのだろう

寒く冷たい雨の中

照(て)かる街路に身を寄せて

どこにもいない 誰かのために

薄い羽鐘(はがね)を震わせて

キリキリキリリと名を告げる

どこにもいない誰かのために

小さなその身を震わせて

限りの命を高鳴りさせる


早くに生まれたこおろぎは

誰を便りに鳴くのだろう

早くに生まれたこおろぎ以外

誰もどこにもいないのに


暗く冷たい夜(よる)の末(すえ)

明月なるや さやざやと

今に生まれたこおろぎは

早くに生まれたこおろぎの

朽ちた殻だを顧みず

さても賑やか 羽鐘奏で立てる


早くに生まれたこおろぎの

小さく透(とお)い魂は

広くて青い空にいて

白い太陽 見るだろう


 
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