野良猫あるいはルンペン(全)/……とある蛙
さもしい顔するなよ。
無表情な黒猫は
ぷいと横を向いて
どこぞへと消えていった。
天空には揺らめく満月
黒い水面に月は無い。
5
前の街で
俺は淫売宿のいかがわしい玄関口で
夕立に打たれて濡れながら歪んだ
恐ろしいほどの雷は
地上の何物かを鷲掴みにしようと
空から腕を突っ込むが
本当に一握りの無辜の生命を食い物にしただけで
暗くて分厚い雲の間を
後悔しながら唸っている
夕暮れの飛礫は
稲穂をすべての基準とする
この国のかつての住人には
有り難みのある贈与でしかない。
水はすべてを作り平らげる。
水は全てを恵み奪い去る。
俺は泣
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