一歩/花キリン
 
前に出る
その一歩に躊躇している

エスカレータは音もなく上ってくる
そして何事もなかったように下りていく
一瞬だけ誰にも気づかれず
時間の中に取り残されていくものがある

思いの難しさを先送りしてきたが
その一歩に
老いの定義が隠されているならば
そこだけが現実と少しかけ離れているのだろう

踏み出せない
その一歩に躊躇している自分がいる

エスカレータが音もなく上ってきては
誘うように足もとでその姿を消していく
考える時間は長くなるだけだ

戻る   Point(3)