暑い夏/花キリン
 

暑い夏が好きだった
手に言葉を添えると時間が生まれた
時間に風味を添えると
愛の形が出来上がった

若さとは手品師だ
思いのままに時間の入れ替えができ
時間の繰越ができる

暑い夏に
トビウオの様に空を飛んだ
高所恐怖症だったが
空の青さと高さの違いを知った
海の色はブルーだった

そんな時代から遠ざかって
命の幾つかを接木しながら生きている
夏の暑さには
過去形が似合うようになってきた

一粒の苦味が線上に無数に広がって
羞恥心とは孤独なものだ
傍らに佇むだけでも
辟易する

昨日蝉の鳴き声を聴いた
何故昨日だったのかは曖昧だ
一日を曖昧な記憶で生活する
このようにして
戻れない先が増えていくのだろう

暑い夏が好きだった
浮遊しているものが散乱していても
記憶で素通りできる

老いた手品師とは
手先の器用さがないから
失敗しても笑って許される
この曖昧さが器用さなのだと
誇れる年齢が近づいてきた

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