一つの内なる形/花キリン
可視化したものだけを残して、後は全部切り捨て、無常という薄い備えを敷いて重なろうとしている。男と女は、言葉ではなく、重ねた肌の温もりでもなく、濡れた余韻でもなく、汗ばむほどに不安なのだ。
二人の間には一本の琴線があれば十分だ。太くなり細くもなるから、触れ合うことで、すんなりと湿り気を帯びた暗いトンネルへ潜り込める。この場所で手招きする仕草は可愛らしく、愛おしさを体中で表現できる。
それでも不安なのだろう。しっかりと何かを抱きしめていたいと思うから、呼吸が欠落する間からこぼれ落ちてくる汗に、繊細な思いを滑り込ませていく。うとうとと行き来しているのは疑心というすきま風だけだ。
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