秘密。/ときこ
僕は彼女が好きなのだ。
あの頃、まだ子供だった僕にとってはこの痛みが恋で愛だったし、きっと僕は彼女と結婚するのだと勝手に思っていた。
結婚して、子供も出来て、母親になっても無邪気な彼女が乗るブランコを押すのは自分だと、
そう信じていた。
*
私、結婚しました。
また会えたらいいですね。
*
「しょうがないから結婚してあげる」と笑って、「早くブランコ押して!」とせがむ彼女の姿が僕の前から遠ざかる。
誰よりも近かった距離は、気づいたら随分と離れていた。
結婚した彼女は、誰にその背を押す事をせがむのだろう。
僕は知らない。
そして彼女も、この机の中に自分にぴったりのサイズの指輪が入っていることを、
知らない。
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