靴音/花キリン
孫の走り寄ってくる靴音にも
萎縮する心がある
可愛い絵模様の靴の音なのだと言い聞かせてみても
すぐに戦中の行進へと
画面が切り替わってしまうのだ
あの時代の靴音は
平和の扉を無理やりに押し倒して
思想の中へと踏み込んできた
一方的な荒々しさの中でいつも死の臭いがしていた
過ぎた時代の一コマなのだが
几帳面に記録したものをひも解くたびに
薄汚れた記録紙の片隅から
軍隊の靴音が蘇ってくる
それでも孫の走り寄ってくる靴音を
必死で抱きしめようとしている
孫の時代には
言い訳するものを残しては置きたくないからと
奮い立つものがあれば
前面に押し出して
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