偶然/花キリン
そうですねと 軽く合槌を打ちながら
何を話していたのだろうか
まだ余熱はあるのだが
その方に出会ったのは偶然なのかも知れない
私の心は少し疲れていて
絵便りの中の風景に恋をしていたようだ
棘の刺さったような声で
私はその方に声をかけたのかも知れない
礼儀などとは私の言い分で
なんて失礼なと思ったことだろう
それでも立ち止まって
山や海のコントラストを歌にしてくれた
今まで素通りしてきた記憶が蘇ってくると
なんとも素敵な恋心だ
余熱の中から生まれた偶然
それから幾つかの
言葉のやり取りをしたような気がする
そうですねと 軽く合槌を打ちながら
何を話していたのか
失礼のないようにと
思いとどまろうとしながらも饒舌になっていった
三日三晩こん睡状態にあった
多くの余熱を抱きかかえながら
なんどもあの絵便りの町に出かけていたのだ
あの方に出会ったのは一度だけだが
それからすっきりと心が目覚め始めている
戻る 編 削 Point(0)