横たわる少女/三条麗菜
 
誰にも知られてはならない
耳をそばだてて

この地面の奥深くには
川のように赤い血が流れていて
少女だけがその流れる音を
聞くことができるのです

でも聞き続けていてはいけません
自分がなぜ一本の樹でないのか
分からなくなって
体の中身が根になろうとして
地中へと流れ落ちてしまうから

誰にも知られてはならない
耳をそばだてて

流れの存在に気がついたのは
木の葉もすっかり落ちた冬のこと
木枯らしに裸にされた樹の幹から
かすかに聞こえてきた鼓動があって
痛む腹を押さえながら幹に触れると
指に赤い血がついて
すぐに蒸発したのです
知られてはならないもの
[次のページ]
戻る   Point(7)