海底バス/村上 和
 
「明日も雨、降るのかな。」
「綺麗な月が出てたから、きっと晴れるわ。」




5.

黒い服
白い首飾り
海底バスに乗って街を行く
灰色の上空には
ゆっくりと沈み来る夕日がなく
ぽつぽつと早くから明かりが灯る

微かな声で小さく唄を口ずさみながら
車窓を流れる蒼く澄んだ景色を眺めていると
行き交う人知れずの物語が無表情のまま
泳ぐように幾つも通り過ぎてゆく




4.

眠ったまま
浮遊しているさかなのように
感情はもう動かない
葬儀場に整列した椅子にひとり座って
背中を丸めていた御老人

笑ってたんだろう
笑ってたんだろう

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