小詩集【すべてはとうに月でした】/千波 一也
 







九 赤子のように


赤子のように
無垢でいられたら

この夜は
どんなに
苦しいだろう


赤子のように
無邪気であったら

この夜は
いつまでも
続いてしまうだろう


それでも
光は

いや、
それだからと云うべきか

光は
赤子のように
覚めては
眠り

知っては
忘れ

食べては
飢えて

きりが
無い





十 黒幕


黒幕の向こうは
まばゆい光

すべてを
遮るかのような
分厚い黒幕も
ちら、と
のぞけば

淡くて
誠実


しかしながら
誠実という意味は
気まぐれな間柄にだけ
成り立つものだから
細心の注意を
払いなさい


黒幕は
得てして悪者

悪者は
得てして
傷もの


見上げてごらん
月を

あれは
もうじき
降りそそぐ

いつものように
変わりなく
















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