遺書にはならない足跡/セグメント
 
択をしてほしくない。良くある話かもしれないが、私は幸福と同時に、非常に強い不安と緊張を覚えているのかもしれない。

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 今回の場合、単純に失うという話ではない。喩えば、気が合わなくなり、別れるとか、そういった話ではない。私が恋人のことを忘れてしまう――あるいは、奪われてしまうという話だ。これは恋人に限った話ではないのだが。
 元々、私は落ち込みやすく、不安を覚えやすいことを主な理由としてメンタルクリニックに通院をしていた。約一年と半が過ぎた頃、つまり最近になって、ようやく症状が落ち着きつつあった。これで、新たな一歩を踏み出せると思った。騒音に悩まされることのない新しい家に引っ越すこ
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