遺書にはならない足跡/セグメント
 
ことが出来得るのか?
 記憶が比較的鮮やかに残っている人格交代時のことも勿論、恐ろしいことに変わりはない。自らの意識はあるものの、思考が、口が、勝手に動くのだ。私ではない私が恋人や友人と話をしている。何とも奇妙な体験だ。出来るならば一生涯、そのようなものは体験したくなかった。
 自らの意思で代わった際に、ああ、これは自作自演とか、思い込みの類ではないのかもしれないと、絶望に似た気持ちで思った。自分のことだ。誰より自分が分かるのではないだろうか。一概にそうとは言い切れないが。つらつらと唇から話を紡ぐ私は、私であって、決して私ではなかった。それならば、あれは一体誰なのだろう。

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