蝉は二度死ぬ/はるな
紫の残暑が湧き出る。コンクリートの硬質を嘲笑うように。明るいところとそうでないところをたがいちがいに踏みつけながらきのう見たテレビを思い出している。
それはせみの羽化の映像で、ナレーションは羽化を神秘として紹介している。褐色の蝉の幼虫が木をよじのぼり、位置をただすとしばらくして背の割れ目から乳白のぬめったからだがうまれる。徐々に。神秘?残暑の頭上には耳の割れるほどの蝉時雨。このすべてが神秘?
床に座ってそれをみた。夜中に。蝉のしがみつく幹は、どこかの森に生える木だろうか、周囲の茂みは深く闇も濃い。窓の外の夜と、テレビの内側のこの夜はほんとうにつながっているのだろうか。この地平の続く
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