血を流す生きもの/三条麗菜
流れ出た量と同じだけの血が
体の中で作られる
それが生きているということだと
悟った日から
私はいつでも全身から血を流し続ける
生きものとなりました
私の体で血を流さないところは
背中に生えている見えない翼だけ
冷たい風が当たって痛む肉体を
翼だけは知らすにいるのです
だから私は力強く羽ばたける
だから私は生きるということとは無縁の
悦びを得ることができるのです
ああ遙か眼下に見えるのは
蟻のようにせわしなく働き
一生飛べない者たち
女王蟻の体から流れ出る
蜜だけをむさぼり
幸せ幸せに時を過ごしている
ああ悦びと幸せとは
こんなにも異なるものだったか
私の翼はうなりをあげる
空に浮かんでただ
顔を変えるだけの月に向かって
そして私の血は
地面を叩く雨となる
空気中を漂う水滴と結ばれて
地上に命を宿らせるために
鏡の前で手にしたコットンに
かすかな赤色が付着した時
私は思うのでした
これは水と結ばれた血なのだと
だからかすかにしか見えないのだと
私の体温が新しい命を待って
また少し上がりました
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