残りもの/三条麗菜
 
浅皿を覆うよどんだ水面は
つい今しがたまで命があったのです
それは固形物に味を与えていました
役割を終えて今にも
捨てられようとしているのです

いつ命が失われたのでしょう
それは最後の固形物が
浅皿を去った瞬間でしょうか
だとすれば命のありなしは
固形物の存在に左右されるのです

あなたの存在に左右される私
などとは言いません
たとえそのよどんだ水面に
自分の姿が映っていても

とある展望台から
広がる都会が見下ろせて
それが大気の緩やかな流れに
波打っていた時
私はそこにあの浅皿を見たのです
いったい何に味を与えていて
それはいつ失われてしまったのか

それが失われた前後で
何も変わっていないので
私たちは捨てられる寸前まで
きっと何も分からないのです

でも浅皿に残った固形物の
細かい破片が言うのです
どうか私たちを見つけてください
どこを探しても見つからなければ
この都市はまだ生きている
ということですから

私はまた
夜に出歩くようになりました


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