無数の手 /服部 剛
新しい職場の老人ホームで
初めて司会のマイクを持った日
お年寄りの皆さんに
塗り絵用の色鉛筆を渡した
十二色の鉛筆の先っぽは
どれもきれいに尖っていたので
今日は鉛筆削りの手間が省けた
昨日は塗り絵が終わった後に
ボランティアのおじさんが
黙々と鉛筆を削る後ろ姿を見たせいか
杖をつくお爺さんの腕を支えて
一緒に歩く今日の僕は不思議と
胸の暖炉がめらめら燃えていた
僕は今、一日の仕事を終えた後の
マクドナルドで、こんな詩を書いているが
手にしたペン、文字を綴る原稿用紙
支える机、照らすライト
胃袋に入ったハンバーガー
それら全ての
見知らぬ場所で仕事をする
名も無い人々の「無数の手」につくられた
もの達の集う風景に、今・僕はいる
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