白いキャンバス/服部 剛
 
目の前の何でもない風景は 
独りの画家が絵筆を手に取れば 
真っ白なキャンバスにあらわれる 
一枚の美しい夢になる 

たとえばそれは 
陽炎(かげろう)揺らめく夏の坂道を 
杖をつく老婆と 
手を取りゆっくり歩む女の後ろ姿 

たとえばそれは 
団地の部屋の布団まで 
体の動かぬ大男を 
額に汗を滲ませ運ぶ、二人の男の後ろ姿  

かれらは皆 
一日の労働を終えて家に帰れば 
安堵のため息を吐きながら 
重い腰を下ろすだろう 

全ての日々は、自らの身を捧げて 
(これでよかった・・・)と呟ける 
あの優しい夕暮れのために 

独りの画家が 
真白なキャンパスに没頭して 
いのちの絵画を描くように 

君よ、明日も 
日常という名の風景画に 
炎となって突入せよ 







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