夕焼けの詩 /服部 剛
久しぶりに実家でゆっくり過ごし
今は亡き祖母の和室に坐り
夕暮れの蜩(ひぐらし)の音を聴いている
掛け軸には富山の姪っ子の
書き初め「広いうみ」が
悠々とクーラーの風に揺れている
額縁には色褪せた大きい写真があり
在りし日の祖母が三味線を抱き
ぴん、と張りつめた弦を
象牙の撥(ばち)で震わせる
今頃富山の姪っ子は
夏休みの一日を終えて
蜩の音を聴いているだろうか?
いつしか午睡に俯いていた僕の夢に
あの日祖母が昇った夕空の
遥かな国の方角から
「夕焼け小焼け」の
オルゴールが聴こえてくる
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