夕焼けの詩 /服部 剛
 
久しぶりに実家でゆっくり過ごし 
今は亡き祖母の和室に坐り 
夕暮れの蜩(ひぐらし)の音を聴いている 

掛け軸には富山の姪っ子の 
書き初め「広いうみ」が 
悠々とクーラーの風に揺れている 

額縁には色褪せた大きい写真があり 
在りし日の祖母が三味線を抱き 
ぴん、と張りつめた弦を 
象牙の撥(ばち)で震わせる 

今頃富山の姪っ子は 
夏休みの一日を終えて 
蜩の音を聴いているだろうか? 

いつしか午睡に俯いていた僕の夢に 
あの日祖母が昇った夕空の 
遥かな国の方角から 
「夕焼け小焼け」の 
オルゴールが聴こえてくる 







戻る   Point(3)