黙夏/高梁サトル
 

―炎天

いつからか父母の面影もなくなった顔の輪郭を撫で
枯れた景色を見すぎたせいかむず痒い目を二、三度こする

何処にも行きとうなくなった
もう何処にも行きとうないんです

陽射しの下でからからと干乾びていく唇はうわ言をつぶやく
八月 日、快晴

炎天下にて小さなノートの背表紙に手をあて
洞穴から湧き出る真水が肌に滲んでいくたび
静かな旋律が喉元で消える
声にもならず消えていく音が


―とおり雨

深く暗い谷間の底から
高く狭い暗雲を見上げている
此処から遠く雷鳴の轟くところに
君はいるのだろうか
一寸前、黒い翼の影が遮ったあれは
甲高く鋭い狂声が頭上を翳め
大きな雨粒をつれてきた
頭から肩から両腕から頬から爪先まで
私はすべてまったくを濡らして
あなたを想う一滴だけが熱い
涸れ果ててしまうかと案じるほどの
夏であったのに

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