奪うのこと/はるな
 
かなのか、波立っているのか、自分でもわからなくなった。はりつめた水のいちばんぎりぎりのところに浮いているようで。深く、沈んでいるようで。あらゆる気持ちや物事が両極を孕み、それが矛盾せず存在する場所にいた。
こんなに遠くまで来られるとは思っていなかった。

わたしたちは、きっともうあまり一緒にはいられないと思う。と同時に、今すぐにでも会うことができる。知らなかった。奪い合うことが、こんなにも静かなことだとは知らなかった。知らないままでいればよかったとも、少し思う。嵐の日に、ふかい水底にいるやどかりみたいな気持で。

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