彗星/三条麗菜
 
しくしく
しくしく
彗星が泣きます

太陽からの風に吹かれ
白い髪をなびかせた姿に
人々は怯えました

小さな砂粒に過ぎないのに
何千倍もの姿に拡大され
魔女のように天を駆ける
それはそんな宿命なのです

しくしく
しくしく
彗星の通り道で

夜に疲れた私たちの影が
街灯の光に拡大されて
アスファルトを駆けてゆく
小さな私たちに比べて
私の影の
あなたの影の
なんと大きいことでしょう
互いの影だけを見つめ続ける
争いはもうたくさんです
でも

しくしく
しくしく
彗星に触れようとしても

それは霧のようであり
どんな優しい手も
通り抜けてゆく
それは影であり
どんな優しい言葉も
通り抜けてゆく

しくしく
しくしく
彗星が去る時

魔女のような髪は消え
風の吹かない道を行く
やっと自分の
小さい手が見えるようになって
誰かと手を取り合いたいのだと
本気で思えることでしょう

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