橿原断片 / 耳成山/beebee
霞が茜空を横切り拡がって行って
私は懐かしい明るさに照らされて歩いていた
遠い親戚だけがこの近くに今でも住んでいるが
いつも時代の隙間に生きている私には寄る辺もない
ただなつかしさで出張の途中に電車を降り
記憶に導かれるままに歩いて来たのだ
そうだ
この辺りに小さな池があって岸辺に繋がれた古い舟が怖かった
その朽ちた舟で岸を離れるとそのまま時間の霞に消えていく
小さい頃もひとりでは舟に乗れなかった
自分には五歳違いの兄と三歳違いの兄がいて
近所の子供達も混ざっていつも群れて遊んでいた
小学校の一年生のぼくにはみんな大きなお兄ちゃんで
後をついて遊んでいた気
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