橿原断片 / 耳成山/beebee
 
り重なって見えた

父親の仕事の関係で小学二年生から金沢に移り住んだ
大学を卒業して就職するまでは金沢に住んでいた
自分の故郷はと問われるとこの町のことを少し頭に浮かべた
中学生までは自分の故郷はこの町だと思っていた

就職してから自分の故郷はと問われると
金沢と答えるようにしている
でもこの年になって東京の生活のほうがはるかに長くなり
子供もできて家族の歴史も重ねてきた
長兄が両親を藤沢に呼んでからは
金沢へ帰る機会もなくなり子供時代の友達とも会うことはない
自分の故郷が分からなくなったような気がした
もともと根の人ではないのだから

しばらくして山頂にむかって歩いて行くと
少しひらけたところがら橿原の町並みが見えた
午後の光のなかで小さな山から望み見た市街は
意外に近くにあって黄色く拡がって見えた
何の変哲もない町だがぼくが生まれた町なのだ
記憶の霞は消え去って当たり前の町並みが広がっている
でもずいぶん遠くに来たような気もした
またひとつ故郷を無くしたような気がした


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