よくある風景/結川菜青
その道化師
わたしだけのピエロ
だと思っていた
ピエロといると
幸せだった
しかめっ面のわたしを
いつも笑わせてくれた
まいにち
優しく
元気かい?と
顔をのぞき込んでは
おどけて見せた
その度
子どものように
うれしくなって
大好き!と
叫ぶのだった
実のところ
ピエロは
職業だった
笑わすことで
社長から
お金をもらって
妻子を養って
いるのだった
私だけのピエロ
だと思っていた
その道化師
家族を心から愛していた
自分だけのものと
信じていた折々
真のピエロは
ほかでも無い
わたし自身だった
空っぽの広場
ひとりぼっち
膝を抱え
黙って
うつむく
笑うことを忘れた
出会いから
四年目の夜だった
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