虫をはなす /服部 剛
 
少年の頃 
食物をせっせと運ぶ蟻さんを 
踏んでしまい 
何故か無性に、胸が痛んだ 

大人になった今 
嫁さんは家の中で虫をみつけると 
つまんで窓外へ逃がすので 
僕も見習い、ある日 

机の上を 
夢中で横断する蟻さんを 
ペン先にのせて 
ティッシュに包んで、窓外に投げた 

やがてゆっくりとティッシュは 
白い花を開いて 
微かに見える蟻さんは 
庭の土をせっせと、歩いていった 







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