piacere/aria28thmoon
 
が、こっちだって先生が来ていることには相当驚いた。

「……どしたのさ、こんな早く」
「いや、別に……早く来すぎちゃって。先生こそ、いつもこんな時間に来てる、とか?」
「いや、時計見間違えただけ」

そう言って、笑う。

「何か描くのか?」
「うん、」

いつもの場所で、クロッキー帳を開いた。

いつも黙って見ているだけの先生が、ふと口を開く。

「本当はさ、見間違えてなんかいなかったのに」
「……え?」

手を止めて振り返ると、先生はうっすらと微苦笑を浮かべていた。

「目が覚めたのがいつもより1時間早かった、そんなことはわかっていたのに、なぜか気付かなかったことにしていた」

私も、と声に出したつもりはなかったのだけれど、聞こえていたらしい。

「やっぱり?」
今度はちょっと悪戯っぽく笑う先生。

「……うん、なんだか今日は、もう出かけなさいって……誰かが」
「ははは、そんな日も、あるさ」

チャイムが鳴った。
いつもの、時間だ。

向かいの音楽室で、吹奏楽部の朝練が始まる。
戻る   Point(0)