しづかな幽霊/甲斐マイク
シェルブウル風のゆがんだ建築に
ひっそりとかれはいる
あたしは
すこし疲れていて
思うやうにコトが運ばない
それでも
かれのときめくなまえをはつおんしてみると
顔を歪めてかすれ声で迎えてくれる
-ああ、
あたしは未だ、
愛されているのだ-
せつなくまばたきをするたびにいきがとまります
かたまった空間の肌触りに気もとおくなります
蓄光体のガラス窓にゆびのあとつめたく
一昨日死んだ筈の猫が口をあけて
あたしのスカアトの裾を握りしめるたびに
いとしいかれは灰になったと思い知る
あたしはいつも痛いけれど それでもいつも居たいのだ
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