マリアの石 ー祈念坂にてー /服部 剛
在りし日の遠藤先生が好きだった
大浦天主堂の脇道を入り
祈念坂の石段をのぼっていたら
足元に、サンタマリアの姿のような
ましろい石が落ちていた
柔らかそうな石なので
頭と足を両手で握ったら、
二つに折れてしまった
なにか大切なものを
壊してしまったようで
裏切ってしまったようで
折れた二つを
思わず両手で、くっつけた
(僕の背負った鞄の中にある
遠藤先生の「切支丹の里」という
本を開けば
深夜の灯りに照らされた
空白の原稿用紙に向かう
先生の背後から亡き母の幻が
両手を合わせて、屈んでいる )
のぼりきった石段を振り返り
緑の木々の囁きに背中を押されながら
この静かな散歩道をのぼってくる
遠藤先生の面影を偲び
手のひらに乗せた
サンタマリアの顔は前よりも
少し屈んで、僕をじっと視ていた
※この詩を、遠藤周作先生の魂に贈ります。
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