こいし/村上 和
急いでって君の手をとって
駅の階段を駆け上る
発車のベルは鳴り止まない
このままこの階段で
いつか波音を聴きながら二人で眺めた丸い月まで
登って行くことは出来ないだろうか
お別れの電車を見送る時は
シートにもたれる小さな背中を想像して
そこに小さな羽をつけてみる
じゃあまたねって言ってくれたから
じゃあまたねって名前をつけて
二人で通った行きの道を
一人で通る帰り道
もっと違う話をすればよかったと
恋詩を蹴りながら帰るなんて
まるで中学生みたいだな
夕焼けの薄いオレンジのなか想う
朝焼けの薄いオレンジのなか
君の声が聞こえた気がして
独りベッドの上で眼が覚める
この手に確かにあった温もりは
砂のようにこぼれてしまったみたいだ
ほら、本当にサラサラだよ。
と砂浜の上
君の声がまだ聞こえる
君が優しかったから
君が笑っていたから
さよなら。こいし
じゃあまたね。
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