しおまち/亜樹
空は悠然と広く高く
海は漠然と深く遠い
その狭間でその松の木はひどくひしゃげて小さく見えた
その松の小さな陰に、溶け込むように老人は腰をかけ
いつまでもいつまでも
くるはずの無い何かを待っている
***
海というものは青くない、と余之介は思った。
少し前に向かい隣の勘太が自慢げにそんなことを言っていたが、どうやらデマだったらしい。空の色にも露草の色にも似つかない。かといって沼のように底の見えない濁りきった苔色ではなく、川のように澄み切った無色透明でもない。
ただひどく、深く重たい色だ。
余之介は勘太に、海なんぞ水溜りのでっかいのだろう
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