北極海上を飛ぶ/天野茂典
高度10,000メートルの上空から
私は見ていた
窓際の席で
北極海を
アンカレッジから飛び出して
ベルギーまで北極海を眼下にながめつづけた
乗客はアイ・マスクをしてほとんど寝ていた
私だけ一人目覚めて
何もない銀幕を眺め続けていたのだった
オーロラも白熊も鯨さえ見ることはできなかった
ただ白い闇が広がっているだけだった
私は思った
この極点を目指して何百人の冒険家たちが
過酷な条件を背負って
極点をめざしたことだろうかと
犬橇で 徒歩で バイクで
植村直己もそのひとりだった
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)