黙祷/村上 和
会いに行く
今日 この時まで 生きていた人がいる
朝は体温を測り
ナースのあくびに苦笑いしたかもしれない
ランチとは呼べない病院食を
最後のわがままで 少し残したかもしれない
今日 この時まで その人は
家の隅にたまった埃のことや
預金通帳を仕舞った引き出しや
明日からの家族のことを考えていたかもしれない
線をつないで
ほどけない
ように
線をつないで
ほどけない
ように結んで
結んで
ほどけない
ようにつないで
ほどけないように
線を結んで
あの日 あの時まで 生きていた人たちがいる
本当はここにいるのがその人たちで
私の生活は続いてはいないのかもしれない
百年後のある日 ある時 誰かさんが
晴れた空を眺めて
鼻をすすりながら
もうすぐ春だなあと考えるのかもしれない
あの日 あの時 生まれた心を込めて
黙祷
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