ジュブナイル/山中 烏流
耳も匂いも
街へ
消えた
*
次の駅で始まるのは緩慢な物語で
と、彼は話し出す
そこに間に合うため
背負った鞄を線路へとほうって
時計の針を
三秒だけ止めると
支柱の麓に用を足す男が
こちらを見つめて
笑う
そして彼等は手を繋いで
どこにも停まらないと評判の電車へ乗り込み
そのまま
帰ってしまった
*
小さな器のような
叩きつけると、音もなく割れる
生き物
さよなら、
私は君のことを
愛しているなんて言ったけれど
多分その言葉だけは
嘘に違いない
*
紫の空だ
風船に似た
危なげな船の上で抱き合って
そのまま
生きることを止めなかった
僕等に
それはよく似ていて
どんな場所からも
すすり泣く声が聞こえるから
どこまでも
どこまでも
君は、歩いていった
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