すてきな建築/甲斐マイク
その
ながい煙突は
をんなのまるい腕のやうで
その
やはらかい踊場は
灰色の砂糖のやうだった
あたしは
去年の今ごろも
この路をひとりでとおったよ
雪というものがふらない冬を
あたしはひとりでわたったよ
あなたは
ちょうど月面にいて
かよわい病気をしていたから
あたしはここにいて
緑色の眉がぱらぱらと落ちてくるのを
つめたいきりぎりすと見てた
-ぼうしのうえにはつきがあり ぼうしのしたにはかなしみがある-
-きゅんとつまったつきがあり きゅんとちぢんだかなしみがある-
あたしはきょう
あなたに手紙を出しましたよ
あたしのかたちになりすました文字で
またあなたに手紙を出しましたよ
厚い毛織のオオバアと
モオショングラフィックの
ささやかな世界の
その
ながい煙突は
あたしのまるい腕のやうで
その
やはらかい踊場は
あなたの膝のやうだった
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