最後の二人/なかがわひろか
 
わたしらがきっと
世界で最後の人間やわね
わたしらはもう
子どももこさえへんし
セックスすることもあらへん
だからわたしらがきっと
世界で最後になるんやね

わたしはときどき思うん
はじめて人間やった人は
どないな気持ちやったんやろうと
そしてわたしはまた思うん
なんであんたは生まれてしもたんや、と

あんたと最後にした夜に
あんたが吐き出した最後の精子を掬って舐めた
これが人類最後の精子の味なんや
そう思ったらちょっと嬉しなった
これからわたしらがすることは全部
人類最後のことなんやと
そう思ったら
ちょっとこそばくなったん

今日もわたしらは起きて
いつものように朝ご飯を一緒に食べて
新聞を取り合いっこして
仕事にでかける

それら全部、人類最後の行為になるん

コーヒーの苦さが
あんたの精子の味と重なる

わたしらはほんまにこれで
よかったんやろうかと
ふと思って
すぐにやめた

(「最後の二人」)
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