眠り姫/salco
な美貌の、閉じた瞼はいかにも軽やか。その
隆起した胸元は動かぬままに安らかな寝息が聞こえそう。纏った長衣も
純白の、美女はまるで ―― いや、あり得ない。これが現実ならば私
の頭が幻なのか、これが幻ならば紛れもなく私の頭に現実はない。
しかし私は遥か下界に残して来た家内の、仰臥せるイノシシの如き寝
姿を即座に対照し、幻滅という現実の苦味をまざまざと、亦ざらざらと
舌に覚え得たのだった。それで思わず棺を持ち上げ、その余りの重さに
これも極めて現実的な痙攣的負荷を腰椎に覚え、院生時代のギックリ腰
をも鮮烈に回想したのである。
それなら蓋を開けようとしたところが先刻の鶴嘴の当たり傷
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