命名/北野つづみ
 
林檎が地面に落ちるように
名前がきみに落ちてきたのか
それともきみが落ちたのか
兎にも角にも
もはや後戻りは出来ない(と、思う
柔らかな髪の一本一本に
小さな指の桜貝に
きみの名前が刻印され
これから先
きみはきみの名前でしか
呼ばれることはない(と、思う

どんな名前で呼ばれても
薔薇は甘く香るというが
きみがきみであるための
必須条件でもないが
これできみも繋がるのだ
近くには奪われた名前があり
遠くでは番号が名前になって
踏みにじられた尊厳と
踏みにじられた命
目を凝らさなければ見えないほど
粉々に砕かれた名前の欠片が
それでも光を反射して
瞬いているこの地表に繋がるのだ

上澄みのように清んだ
きみと名前との引力を信じ
毛筆で黒々ときみの名を書く
お七夜





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