詩人の夢 ー神保町・ラドリオにてー  /服部 剛
 
在りし日の詩人が仲間等と 
文学の夢を語った赤煉瓦のCafeで 
独り一篇の詩を綴るひと時 

当時のマスターが 
詩人へ送った葉書のコピーと
花束を捧ぐ想いを込めた詩を
重ねて
鞄にそっと忍ばせる 

夭折した詩人の姿はすでに無く
気がつくと 
机上の青い砂時計の
括(くび)れの下へ
ひとつの時は、落ちていた

あの頃と変わらぬ唄声の 
シャンソンが流れるCafeで 
向かいの席に、もう一つ 
水の入ったコップを置けば 

あの頃から、ぴったりと静止した 
時の隙間の未知なるドアから 

風になった詩人の面影は 
ひとつの夢を胸に抱き 
こちらへそっと、歩み来る 



 ※ この詩を、約六十年前に「ラドリオ」で若き日に語り合った
   敬愛する作家遠藤周作・詩人原民喜に捧げます。 







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