薫風/シホ.N
するともなく脳裡に浮かんでもいる
窓はいつものように開けっ放してあり
懐かしいとも親しいとも遣り切れないともいえるが
しかし単にそうともいえない
そんな匂いらしきものが
顔の面にやわらかく衝突し
髪の生えぎわのあたりから
脳の中心のほうへ向かって浸みこんでゆき
頭の中を弱く刺激しかけている
そういうわけで
といっても
どういうわけなのか理解などしていないし
理解しようとも思わないが
とにかく一つの言葉が
やってきたわけである
「風!」
これが
この日一日の
すべてである
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