背中/はるな
 
いた。少年のようにみえた。髭がうすくて、眠りが深い。隣でいつまでたっても眠れずに何度も寝顔をのぞいた。わたしの息に、柔らかく崩れる前髪。
恋をしていたから、彼の言葉のどれも信じがたかったし、嘘でもかまわなかった。うれしい言葉ばかりを覚えて反芻した。寝息のひとつひとつも瓶に封じて持ち歩きたいくらいだった。彼が寝たシーツの皺にも嫉妬した。手を繋いで歩いた。お互いの恋人の話を少しした。朝の牛丼屋でビールを飲んだ。湯舟で泡にまみれて性交をした。そのときに笑っていた顔、よく覚えている。部屋の窓を開け放って眠った。ラブホテルの外側は排気に汚された国道。

彼のなにかが必要だったわけではないし、彼もわたし
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