染色体/中山 マキ
 



洒落にならない暇を
モラトリアムなんて仮定で
窮屈という態度は
煙草で憂さを晴らすように
それらしい野蛮なリズムで
「何にもなれない」とだらけた男を
片手で空を仰ぐように
いとおしいと撫でた。

昨日とは違う女を抱く男の腕は
背中を貫くほどに自由だって
母親が年甲斐もないピンク色の唇で
満足そうに言っていたのは
私が高校1年の頃
せがむことも諦めていた春。

広がって行く細菌のように
ステンレスのキッチンに
渦巻いているはずの
この目には届かない
身体で蔓延するだけの染色体を
恨んでしまえば終わりだから
折れるほどに私を抱く男を
ほんの一瞬だけ本気で思いながら
片手で空を仰いで、泣いた。





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