あくまでもシャープ/佐々宝砂
 
わたしがシャープと言えば
きみはフラットと言う

いつだってそういうことになっている。

わたしはあがり調子の躁状態で
うきうきとよく冷えたビールをあおる
きみはどん底に停滞して
苦虫かみつぶして生温い珈琲をすする
ああ今日もおてんとさんは腐敗する大地をあたたかく肥やし
そんなこととは無関係に洞窟のバクテリアは硫酸を生産し
広がりゆく宇宙はまだまだきらびやかに幸福な不均一
この驚くべきシアワセを満喫するわたしは
わざとらしく口の端をつりあげて
隠し味にフラットを入れた
Cメジャーセブンスのコードを響かせる
きみは不機嫌きわまりない顔で
あかるい窓辺に這う蝿を憎々し
[次のページ]
戻る   Point(3)