月を後ろに/由志キョウスケ
今夜は月を後ろに
歩こうと思う
白い月明かりに
冷たい手の平をかざすと
浮きでた手首の骨と
静脈がよく透けて見える
街灯も無く
家の明かりも無く
駅の照明も消え果てた夜
今夜は月を背に
歩こうと思う
右手の人差し指を
折り曲げては
じっと見ている
白い闇に
ぼんやりと黒いのは
僕の右手
耳を澄ます靴音に
ぼやけた人影は
僕の形
他には誰もいない
後ろを歩く人はいない
今夜は月を後ろに
歩こうと思う
やがて月も沈むだろう
僕も家路を辿るだろう
朝食代わりの牛乳を温めて
夜が明ける
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