修羅の影ではなくて/石川敬大
キズついて、じっとこっちをみつめていた
にげないんです
まだ猟師が銃でねらっているのに
にげてー、って言いたいのに
わたしは凍りついた人のようになす術がなくて
わたしは人間の
傍観者/日和見主義者
うらぎり者では生きてゆけませんから
キズついたカモシカが
森の奥にきえてゆくときも
ただじっとみていただけなんです
*
山の端からのぼったものが池をめぐった
修羅の影ではなくて
……月だったか
娘のやさしい微笑みだったか
それとも、胸の篝火だっただろうか
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